Skip to content
Cloud AI エンジニア入門ガイド
Go back

03. Geminiの仕組み

Geminiを使っていると、不思議に思う場面がいくつも出てきます。同じ質問なのに毎回答えが違う。もっともらしい嘘の出典を出す。文字数の数え上げを間違える。どれもバグではなく、内部の仕組みから素直に説明できる性質です。

4つの鍵を順に見ていきます。難しい数式は使いません。

この章の全体像として、トークン、次のトークン予測、専門家の分担、最初から多形式の4つを番号順に並べ、ゆらぎや苦手の理由を仕組みから説明できるようになることを示した図

シリーズ目次前章: 02. Geminiモデルファミリーの読み方次章: 04. Geminiが「考える」仕組みと長いコンテキスト

Table of contents

Open Table of contents

この章のねらい

鍵1 トークン:言葉を扱う最小単位

モデルは文字や単語をそのまま扱っていません。文章をトークン(token) という小さな断片に割ってから処理します。トークンは単語より細かいこともあれば、複数文字をまとめたものになることもあります。

たとえば「今日の天気は」という文は、内部でこういう断片の並びになります(割り方はモデルによって違います)。

["今日", "の", "天気", "は"]

英語ではおおむね「1トークン ≒ 4文字程度」、日本語では1文字が1トークン以上になることが多く、同じ内容でも日本語のほうがトークン数が多くなりがちです。

このトークンという単位が、後に出てくる料金計算や、一度に扱える情報量の上限(コンテキストウィンドウ)の基準になります。

同じ文を人間とモデルがどう数えるか、並べて比べてみます。

同じ「今日の天気は」という文について、人間は6つの文字として見るのに対し、モデルは今日・の・天気・はという4つのトークンとして扱うことを上下に並べて比べた図

Note

「『りんご』は何文字ですか」のような問いをモデルが間違えるのは、見ているのが文字ではなくトークンだからです。人間が文字として見ているものを、モデルは直接には見ていません。

鍵2: 次のトークンを予測し続ける

大規模言語モデルの中核の動作は単純です。これまでの文章を受け取り、次に来るトークンの確率を計算し、その中から1つ選ぶ。これを終了条件に達するまで繰り返します。

入力文をトークンに分割し、次のトークンの確率を計算して1つずつ選び、末尾に足しながら繰り返す流れの図

「今日はいい」まで与えられたとき、モデルは次のような確率を出します。

候補確率(例)
天気0.62
0.21
気分0.09
その他0.08

常にいちばん確率の高い候補を選ぶと、毎回まったく同じ答えになり、文章も単調になります。そこで実際には、確率に従ってある程度ランダムに選びます。同じ質問でも毎回少しずつ答えが違うのは、このランダム性のせいです

このばらつき具合を調整する値を温度(temperature)と呼びます。Geminiアプリの画面では普通いじりませんが、開発者向けAPIでは指定できます(第12章)。

モデルがやっているのは、正しい答えを検索することではなく、もっともらしい続きを作ることです。この性質が、後で出てくるハルシネーション(もっともらしい誤り)の根にあります。

鍵3 Mixture of Experts

Gemini 1.5以降のモデルは、Mixture of Experts(MoE、専門家の混合) という設計を採用しています。Gemini 3系では「スパースMoE」と説明されています。スパース(sparse)とは「まばら」という意味です。

考え方はこうです。モデルの内部を、多数の小さな専門家ブロックに分けておく。そして入力トークンごとに、振り分け役(ルーター)が担当する専門家を数個だけ選び、残りは動かしません

入力トークンをルーターが振り分け、多数の専門家ブロックのうち一部だけを動かして結果をまとめる図

大きな病院にたとえると分かりやすい。内科も外科も眼科も、専門医はたくさんいますが、患者ひとりに全員が対応するわけではありません。受付が症状を見て、必要な科へ回す。全体としては大規模でも、1人あたりの処理は軽く済みます。

この設計の利点は次のとおりです。

観点効果
知識量専門家の総数を増やせるので、モデル全体としては大規模にできる
速度1回の生成で動くのは一部だけなので、規模のわりに速い
費用動かす計算量が減るため、提供コストを抑えられる

大きいのに速い。一見矛盾したこの特性は、この仕組みから来ています。

鍵4: 最初からマルチモーダル

多くのAIサービスは、もともと文章専用に作られたモデルへ、後から画像認識などを継ぎ足して機能を広げてきました。Geminiは設計の当初から、文章と画像と音声と動画を同じ入力として扱う方針です。これをネイティブマルチモーダルと呼びます。

文章・画像・音声・動画を同じ入力の枠組みで扱う考え方を示す図。実際の対応はモデルごとに異なる

画像も音声も動画も、いったんトークンの並びに変換されてしまえば、モデルにとっては文章と同じただの並びです。だから、こういう芸当ができます。

後付けで機能を足した構成だと、画像を説明文へ変換してから本体へ渡す二段構えになりがちで、その過程で細かい情報が落ちます。最初から同じ土俵に載せておくほうが、取りこぼしが少ない。

実際の使い方は第7章で扱います。

なお、入力を理解できることと、その形式を生成できることは別です。画像・動画・音声の生成は、対応する専用のモデル系統や機能が担当します。

知識はどこにあるのか

事前学習で得られる知識は、辞書のように整理して格納されているわけではありません。パラメータ(モデル内部の膨大な数値の集まり。重みとも呼ばれます)に、統計的な傾向として溶け込んでいます。だから、うろ覚えのところが滑らかに埋まってしまう。

学習に使われたデータには時期の区切りもあります。これを知識カットオフと呼び、それ以降の出来事は原則として知りません。最新情報が要るなら、Web検索機能と組み合わせてください。Geminiアプリは多くの場面で自動的に検索しますが、検索したかどうかは出典表示の有無で確認するのが確実です。

知識のありかと、知識が届く範囲を1枚にまとめます。

辞書のように項目を引くというイメージと、パラメータに統計的な傾向として溶けているという実際を対比し、学習データの範囲と知識カットオフより先の知らない領域を帯で示した図

仕組みから説明できるよくある現象

現象原因
毎回答えが違う次トークンを確率的に選んでいるため
存在しない論文やURLを作る「もっともらしい続き」を生成しているため
長い会話で前提を忘れる一度に扱えるトークン数の上限を超えたため(第4章
文字数の数え上げを間違える文字ではなくトークンを見ているため
最近の出来事を知らない知識カットオフ以降のデータを持たないため
規模のわりに応答が速いMoEにより一部の専門家だけを動かしているため

4つの仕組みと現象の対応を、線で結んで整理します。

左に4つの仕組み、右にそれぞれから生じる現象を並べ、トークン単位・確率的な選択・専門家の一部利用・時期と量の区切りがどの現象を引き起こすかを矢印で結んだ図

これは設計上の性質です。直るのを待つのではなく、使う側が前提として織り込んでください。詳しい対処法は第13章で扱います。

要点

参考資料


シリーズ目次前章: 02. Geminiモデルファミリーの読み方次章: 04. Geminiが「考える」仕組みと長いコンテキスト


Share this post:

Previous Post
04. Geminiが「考える」仕組みと長いコンテキスト
Next Post
02. Geminiモデルファミリーの読み方