Geminiを使っていると、不思議に思う場面がいくつも出てきます。同じ質問なのに毎回答えが違う。もっともらしい嘘の出典を出す。文字数の数え上げを間違える。どれもバグではなく、内部の仕組みから素直に説明できる性質です。
4つの鍵を順に見ていきます。難しい数式は使いません。
シリーズ目次 / 前章: 02. Geminiモデルファミリーの読み方 / 次章: 04. Geminiが「考える」仕組みと長いコンテキスト
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この章のねらい
- 文章が生成される流れを、トークンと次トークン予測という言葉で説明できるようになる
- Mixture of Experts(専門家の混合)という設計が、なぜ大きなモデルを速く動かせるのかを理解する
- 最初からマルチモーダルであることの意味と利点を説明できるようになる
- 出力のばらつきや誤りが、仕組みから生じる必然だと分かる
鍵1 トークン:言葉を扱う最小単位
モデルは文字や単語をそのまま扱っていません。文章をトークン(token) という小さな断片に割ってから処理します。トークンは単語より細かいこともあれば、複数文字をまとめたものになることもあります。
たとえば「今日の天気は」という文は、内部でこういう断片の並びになります(割り方はモデルによって違います)。
["今日", "の", "天気", "は"]
英語ではおおむね「1トークン ≒ 4文字程度」、日本語では1文字が1トークン以上になることが多く、同じ内容でも日本語のほうがトークン数が多くなりがちです。
このトークンという単位が、後に出てくる料金計算や、一度に扱える情報量の上限(コンテキストウィンドウ)の基準になります。
同じ文を人間とモデルがどう数えるか、並べて比べてみます。
「『りんご』は何文字ですか」のような問いをモデルが間違えるのは、見ているのが文字ではなくトークンだからです。人間が文字として見ているものを、モデルは直接には見ていません。
鍵2: 次のトークンを予測し続ける
大規模言語モデルの中核の動作は単純です。これまでの文章を受け取り、次に来るトークンの確率を計算し、その中から1つ選ぶ。これを終了条件に達するまで繰り返します。
「今日はいい」まで与えられたとき、モデルは次のような確率を出します。
| 候補 | 確率(例) |
|---|---|
| 天気 | 0.62 |
| 日 | 0.21 |
| 気分 | 0.09 |
| その他 | 0.08 |
常にいちばん確率の高い候補を選ぶと、毎回まったく同じ答えになり、文章も単調になります。そこで実際には、確率に従ってある程度ランダムに選びます。同じ質問でも毎回少しずつ答えが違うのは、このランダム性のせいです。
このばらつき具合を調整する値を温度(temperature)と呼びます。Geminiアプリの画面では普通いじりませんが、開発者向けAPIでは指定できます(第12章)。
モデルがやっているのは、正しい答えを検索することではなく、もっともらしい続きを作ることです。この性質が、後で出てくるハルシネーション(もっともらしい誤り)の根にあります。
鍵3 Mixture of Experts
Gemini 1.5以降のモデルは、Mixture of Experts(MoE、専門家の混合) という設計を採用しています。Gemini 3系では「スパースMoE」と説明されています。スパース(sparse)とは「まばら」という意味です。
考え方はこうです。モデルの内部を、多数の小さな専門家ブロックに分けておく。そして入力トークンごとに、振り分け役(ルーター)が担当する専門家を数個だけ選び、残りは動かしません。
大きな病院にたとえると分かりやすい。内科も外科も眼科も、専門医はたくさんいますが、患者ひとりに全員が対応するわけではありません。受付が症状を見て、必要な科へ回す。全体としては大規模でも、1人あたりの処理は軽く済みます。
この設計の利点は次のとおりです。
| 観点 | 効果 |
|---|---|
| 知識量 | 専門家の総数を増やせるので、モデル全体としては大規模にできる |
| 速度 | 1回の生成で動くのは一部だけなので、規模のわりに速い |
| 費用 | 動かす計算量が減るため、提供コストを抑えられる |
大きいのに速い。一見矛盾したこの特性は、この仕組みから来ています。
鍵4: 最初からマルチモーダル
多くのAIサービスは、もともと文章専用に作られたモデルへ、後から画像認識などを継ぎ足して機能を広げてきました。Geminiは設計の当初から、文章と画像と音声と動画を同じ入力として扱う方針です。これをネイティブマルチモーダルと呼びます。
画像も音声も動画も、いったんトークンの並びに変換されてしまえば、モデルにとっては文章と同じただの並びです。だから、こういう芸当ができます。
- 動画を見せて「3分22秒のあたりで何が起きているか」を説明させる
- 手書きのメモを撮影して、内容を表に整理させる
- 図表を含むPDFを読ませて、図の意味を踏まえた要約を作らせる
後付けで機能を足した構成だと、画像を説明文へ変換してから本体へ渡す二段構えになりがちで、その過程で細かい情報が落ちます。最初から同じ土俵に載せておくほうが、取りこぼしが少ない。
実際の使い方は第7章で扱います。
なお、入力を理解できることと、その形式を生成できることは別です。画像・動画・音声の生成は、対応する専用のモデル系統や機能が担当します。
知識はどこにあるのか
事前学習で得られる知識は、辞書のように整理して格納されているわけではありません。パラメータ(モデル内部の膨大な数値の集まり。重みとも呼ばれます)に、統計的な傾向として溶け込んでいます。だから、うろ覚えのところが滑らかに埋まってしまう。
学習に使われたデータには時期の区切りもあります。これを知識カットオフと呼び、それ以降の出来事は原則として知りません。最新情報が要るなら、Web検索機能と組み合わせてください。Geminiアプリは多くの場面で自動的に検索しますが、検索したかどうかは出典表示の有無で確認するのが確実です。
知識のありかと、知識が届く範囲を1枚にまとめます。
仕組みから説明できるよくある現象
| 現象 | 原因 |
|---|---|
| 毎回答えが違う | 次トークンを確率的に選んでいるため |
| 存在しない論文やURLを作る | 「もっともらしい続き」を生成しているため |
| 長い会話で前提を忘れる | 一度に扱えるトークン数の上限を超えたため(第4章) |
| 文字数の数え上げを間違える | 文字ではなくトークンを見ているため |
| 最近の出来事を知らない | 知識カットオフ以降のデータを持たないため |
| 規模のわりに応答が速い | MoEにより一部の専門家だけを動かしているため |
4つの仕組みと現象の対応を、線で結んで整理します。
これは設計上の性質です。直るのを待つのではなく、使う側が前提として織り込んでください。詳しい対処法は第13章で扱います。
要点
- モデルは文章をトークンに分割し、次のトークンの確率を計算して1つずつ生成している
- 確率的に選ぶので出力は毎回ゆらぐ。常にもっともらしい続きが作られている
- Mixture of Expertsにより、多数の専門家ブロックのうち一部だけを動かすので、大規模でも速い
- 文章・画像・音声・動画を最初から同じトークン列として扱う設計になっている
- 知識はパラメータに統計的に溶けており、知識カットオフ以降の出来事は検索で補う必要がある
参考資料
- Gemini API ドキュメント「Models」 https://ai.google.dev/gemini-api/docs/models — モデル構成と対応モダリティ(基準日: 2026-08-04)
- Gemini API ドキュメント「Long context」 https://ai.google.dev/gemini-api/docs/long-context — トークンと入力量の関係
- Wikipedia(英語版)「Gemini (language model)」 https://en.wikipedia.org/wiki/Gemini_(language_model) — Mixture of Expertsの採用時期と世代ごとの構成
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