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Claudeが生成したテキストに「見えない透かし」が追加。日本を含むグローバルに適用へ

2026年8月11日、Anthropicがサポートサイトに How Claude marks AI-generated content(ClaudeによるAI生成コンテンツのマーキング方法)を公開しました。同日、TechCrunch をはじめ複数のメディアが報じています。Claudeが生成した文章やファイルに、人間には見えない印を付けていくそうです。

Anthropicがこれを始めたのは、EUのAI規制が2026年8月2日に効力を持ったからです。ただし適用先はEU域内に限りません。Claudeが提供されている地域すべてだと書かれているので、日本から使っている自分にも関係します。

読んでいて一番引っかかったのは、Anthropicが肝心の透かしの方式を一切書いていないことでした。マーキングの説明記事でマーキングの方法を伏せる、というのは据わりが悪い。そこも含めて、何が付くのか、どういう仕組みなのか、印があるときとないときに何が言えるのかを追いかけます。

なぜ印が付くのか、何に付くのか、そこから何が言えるのか、組み込む側は何をするのかという4つの視点を上から順に並べ、印は証拠ではなく手がかりだという結論へ至る全体像

Table of contents

Open Table of contents

Anthropicが約束したこと

Anthropicはサポート記事の冒頭で、EU AI Act第50条(2)に関する「AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範」に、生成AIモデルの提供者としても生成AIシステムの提供者としても署名した、と述べています。そのうえで、Claudeに関する約束を4つ挙げています。

  1. 新しいモデルは提供開始の日からマークを付ける。2026年8月2日以降にEUで提供が始まったClaudeモデルは、提供開始時点で機械可読なマーキングに対応します。生成されたテキストには埋め込み透かしが載り、生成されたファイルには、対応している範囲で電子署名付きの来歴メタデータが付きます。
  2. Claudeを使う場所を問わず適用される。マークはAPI、Claude、Claude Code、Claude Cowork、Claude Tagの出力に載り、Claudeが提供されている地域なら世界中で適用されます。ただし製品や機能によっては、特定の種類のマークに対応しないこともあるそうです。
  3. 検出を支援する。利用者や第三者がClaudeのマークを検出できるよう支援すると述べていますが、詳細は今後の技術文書で公開する、で止まっています。
  4. 既存モデルは対応作業中。2026年8月2日より前に提供が始まったモデルには法律上の移行期間があり、そこにもマーキング対応を追加している最中だそうです。

対象範囲について、Anthropicはもう少し細かく書いています。

区分内容
モデル2026年8月2日以降に提供開始されたClaudeモデルは提供開始時点で対応。それ以前のモデルへの対応も作業中
製品Claude Platform(API)、Claude、Claude Code、Claude Cowork、Claude Tag。埋め込み透かしは生成テキスト全般に、来歴メタデータはClaudeがファイル処理に対応している範囲に適用
クラウド経由AWS、Google Cloud、Microsoft Foundry 経由で対応モデルを使う場合も埋め込み透かしは適用。署名付き来歴メタデータは各基盤が提供する機能次第
地域Claudeが提供されている地域すべて。世界中

出典:How Claude marks AI-generated content(2026年8月11日更新、2026年8月12日参照)

モデル、製品、クラウド経由、地域という4つの軸をカードで示し、どのモデルからいつ付くのか、どの製品と経路に及ぶのか、どこまでの地域が対象なのかを整理した図

背景にあるEU AI Act第50条

なぜ今なのかは、EU側の事情を見ると分かります。

EU AI Act は、EUが定めたAIに関する包括的な規制です。その第50条が透明性義務の条文で、AIが関わっていることを人に分かるようにする義務をまとめています。

第50条(2)が求めていること

生成AIに直接効いてくるのが第50条(2)です。合成された音声、画像、映像、テキストを生成するAIシステムの提供者は、その出力が 機械可読な形式でマークされ、人工的に生成または操作されたものとして検出可能である ことを確保しなければなりません。しかも、その技術的な解決策は次の4つを満たす必要があります(Article 50 | EU Artificial Intelligence Act)。

要件意味
effective(効果的)実際に狙いどおり機能すること
interoperable(相互運用可能)他の事業者やツールとも噛み合うこと
robust(頑健)編集や変換をある程度受けても壊れないこと
reliable(信頼できる)誤検出や見落としが少ないこと

とはいえ第50条(2)は、技術的な実行可能性、コンテンツの種類、実装コスト、業界標準を考慮に入れるとも書いています。入力データやその意味を実質的に変えない補助的な編集機能だけのシステムと、法執行目的で認められたシステムは対象外です。欧州委員会はFAQで、記号や数字の短い並び、ソースコード、機械間通信の出力、閉じた産業環境も対象外に挙げています(Transparency obligations under Article 50 of the AI Act)。

どんな技術を使うかまでは条文で決めていません。前文133項(Recital 133)には、透かし、メタデータによる識別、来歴と真正性を証明する暗号学的手法、ログ、フィンガープリントが例として並んでいて、AIシステムのレベルで実装してもAIモデルのレベルで実装してもよいと書かれています(Recital 133 | EU Artificial Intelligence Act)。

行動規範という仕組み

条文だけでは、結局どうすれば守ったことになるのかが分かりません。そこを埋めるために、欧州委員会が 行動規範(Code of Practice) という任意参加の文書を用意しました。

AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範は2026年6月10日に最終版が公開され、2026年7月8日に欧州委員会が、翌9日にAI Boardが、第50条(2)(4)(5)の実務的な実施を促進するのに適切だと結論付けています。7月末までにおよそ190の企業や団体が署名しました(Code of Practice on Transparency of AI-generated Content)。

規範は2つの節に分かれます。

規範を書いた側は、1つの技術で4要件をすべて満たすのは今のところ無理だと踏んでいます。だからメタデータ、透かし、来歴の仕組みを重ねて使う層状のやり方を勧めています(The EU’s AI Transparency Code of Practice, Explained | Tech Policy Press)。Anthropicがテキストとファイルで別々の方式を採るのも、この考え方に沿っています。

署名は義務ではありません。ただし署名しなければ、第50条を満たしていることを自力で説明する羽目になります。あれだけの数が署名に走った理由は、たぶんそこでしょう。

日程と、Anthropicが言う移行期間

日付出来事
2026年6月10日行動規範の最終版が公開される
2026年7月8日と9日欧州委員会とAI Boardが行動規範を適切と判断
2026年8月2日第50条の透明性義務が適用開始
2026年12月2日2026年8月2日より前に市場に出ていたシステムについて、マーキング義務の猶予期限

2026年12月2日という日付は、Digital Omnibus(規則 (EU) 2026/1744、2026年7月27日発効)でEUが設けた4か月の猶予です。EUはこの規則で高リスクAIの義務を後ろへずらしましたが、第50条の透明性義務そのものは予定どおり2026年8月2日から適用されています。ずれたのは、8月2日時点ですでに市場にあった生成AIシステムのマーキング対応期限だけです(Goodwin: EU AI Act Transparency Obligations Are Now in Force)。

Anthropicが言う移行期間は、この猶予のことです。ここまでの日程を並べておきます。

行動規範の最終版公開、欧州委員会とAI Boardによる適切判断、透明性義務の適用開始、既存システムのマーキング猶予期限という4つの日付を上から順に並べた時系列の図

違反した場合の制裁金は、最大1,500万ユーロ、または全世界年間売上高の3%のいずれか高い方です(第99条(4))。ただし高い方を取られるのは大企業だけで、SME(中小企業とスタートアップ)は同条(6)により低い方が上限になります。Digital Omnibusが足した(6a)で、SMC(小規模中堅企業)も同じ扱いになりました。自社がどの区分に入るかで桁が変わるので、そこは先に確かめておいたほうがいい(Article 99 | EU Artificial Intelligence Act)。

2つのマーク方式

Anthropicは、Claudeが作ったり手を入れたりしたコンテンツに、補い合う2つの技術を使うと説明しています。テキストに埋め込む透かしと、ファイルに付ける署名付きの来歴メタデータです。

対応するClaudeモデルの出力がテキストとファイルに分かれ、それぞれ埋め込み透かしと署名付き来歴メタデータを経て検出につながる流れ。未対応モデルには印が付かないことも示した図

性質はかなり違います。

観点埋め込み透かし署名付き来歴メタデータ
対象生成されたテキスト.svg.png.jpg などの対応ファイル
どこにあるか本文そのものの中ファイルに付随するメタデータ領域
適用のレベルモデルレベル。対応モデルなら、どの製品から出た文章でも載るファイルを生成する処理の中
コピー&ペースト本文と一緒に付いてくるテキストとして貼り付けると失われる
弱いところ大幅な書き換え、言い換え、翻訳、短すぎる文章形式変換、再保存、スクリーンショット
準拠する標準Anthropicは方式を公表していないC2PA(業界標準)
分かることClaudeが処理した可能性Claudeが処理した可能性と、改ざんの有無

モデルレベルで適用される、という点は地味に効いてきます。対応モデルさえ使っていれば、Claudeのチャット画面から出た文章でも、APIから返ってきた文章でも、Claude Codeがターミナルへ表示した文章でも、同じように透かしが載る。Anthropicは製品ごとに実装を足さなくて済みます。

裏を返すと、対応前のモデルを呼んでいる限り、どの製品から出そうが透かしは載りません。2026年8月2日より前に提供が始まったモデルは、まだ作業中です。

違いは、印がどこにあるかに尽きます。片方は本文そのもの、もう片方は外側に添えた記録です。

左にテキストの埋め込み透かしを本文の行そのものへ刻まれた点として、右に署名付き来歴メタデータをファイルへ外付けされた札として描き、それぞれの強みと弱みを左右に並べて対比した図

テキストに埋め込む透かし

Anthropicの説明はこうです。対応するClaudeモデルがテキストを生成するとき、知覚できない透かしをテキストそのものへ織り込む。利用者にはそれが見えず、応答の意味、品質、読みやすさも変わらない。透かしは本文の一部なので、どこかへコピー&ペーストしても一緒に移動し、ある程度の編集を経ても残ることがある。

肝心の方式について、Anthropicは何も書いていません。Daring Fireball はさっそく「どうやってマークしているかを説明しないまま『Claudeがどうマークするか』を投稿した」と皮肉っていて、自分も同意です。方式を伏せる理由は分かります。公開すれば透かしを外す方法も分かってしまう。とはいえ透明性の名目で始めた話なので、せめて外部が検証できる程度の情報は出してほしかった。今の状態では、透かしが載っているかどうかを確かめられるのはAnthropicだけです。

以下は、公開されている一般的なテキスト透かし技術の話です。Claudeが同じ方式だという意味ではありません。

仕組みの一般論

大規模言語モデルは、文章を1語ずつ生成します。正確には トークン という単位(おおむね単語や単語の断片)ごとに、次に来る候補とその確率を計算し、そこから1つ選ぶ、という手順を繰り返します。

テキスト透かしは、この選び方に鍵を使ったごく小さな偏りを仕込みます。

次の語の候補に鍵由来の微小な偏りを加えて語を選び、検出器が同じ鍵で偏りの強さを測るまでの流れ

代表的な方式が2つあります。

サイコロに目に見えない癖を仕込むようなものです。1回や2回振っただけでは癖があるかどうか分かりません。何千回も振って初めて、出目がわずかに偏っていると統計的に言える。透かしの検出も同じで、判定材料になるのは文章の長さです。

ここから分かる性質

だから、こうなります。

Claudeが生成したテキストを起点に、左へコピーや軽微な編集など透かしが残りやすい操作、右へ書き換えや翻訳、短い引用など透かしが薄れる操作を4つずつ並べて対比した図

ファイルに付く署名付き来歴メタデータ

もう一方の方式は、ファイル向けです。Anthropicは、Claudeが .svg.png.jpg といった対応ファイル形式を生成するとき、署名付きの来歴メタデータを添付すると説明しています。このメタデータは C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)というオープン標準に従います。署名付きのラベルが残っていれば、そのファイルをClaudeが処理したことが分かり、あとで誰かが改ざんしたかどうかも確かめられます。

C2PAの構造

C2PAは、誰がいつ何をしたかの記録を、電子署名付きでファイルに添える仕組みです。仕様2.2は2025年5月に出ています(C2PA Specification 2.2)。

C2PAのマニフェストストアからアサーション、クレーム、クレーム署名、ハードバインディングまでの構造と検証の流れ

用語が多いので、先に並べておきます。

用語意味
アサーション(assertion)ファイルについての個々の主張。撮影機器の情報、行った操作、サムネイル、ハッシュ値など
クレーム(claim)ある時点のアサーションをひとまとめにした記録。改ざんが分かる形で符号化される
クレーム署名(claim signature)署名者の秘密鍵によるクレームへの電子署名
マニフェスト(manifest)アサーション、クレーム、クレーム署名をまとめた1件分の来歴情報
マニフェストストアマニフェストの集まり。処理のたびに積み重なり、履歴になる
アクティブマニフェストストアの最後にあり、いま実際にファイルと照合できるマニフェスト

結び付け方には2種類あります。

信頼の起点はX.509証明書です。C2PAが管理する信頼リスト(Trust List)に載った認証局を既定の起点とするので、署名の有無に加えて、誰が署名したのかまで確認できます。

例えるなら、書類を封筒に入れ、中に作業記録を同封し、封蝋で封をするようなものです。封蝋の印を見れば誰が封をしたか分かり(クレーム署名と信頼リスト)、同封のハッシュ値と書類を突き合わせれば途中で差し替えられていないか分かります(ハードバインディング)。ただし突き合わせられるのは、記録を取ったページだけです。

対応する形式と、弱いところ

C2PAのマニフェストは幅広い形式へ埋め込めます。画像ならJPEG、PNG、GIF、SVG、TIFF、JPEG XLなど。映像や音声ならMP4やMOVといったISO BMFF系。文書ならPDF。ほかにOpenTypeフォントやZIPベースの形式(EPUB、Office文書など)も対象です。

弱点ははっきりしています。メタデータは剥がせます。スクリーンショットを撮る、形式を変換する、対応していないツールで開いて保存し直す。これだけで簡単に失われます。SNSへ投稿した時点で消えることもある。

つまりC2PAは加点方式です。メタデータがあれば信頼できる情報が増えるだけで、無いことは何の情報にもなりません。

左にメタデータがあるときに分かる3つのこと、右に無いときに言えない2つのことを対比し、下段にメタデータが剥がれる4つの経路を並べた図

印の有無から何が言えるのか

ここが一番誤解されそうなところです。Anthropic自身も記事の中で節を割いて限界を書いています。

マークを検出できた場合とできない場合それぞれについて、そこから言えないことを整理した判断の流れ

検出できたとき

Anthropicによれば、マークが検出されたことは、そのコンテンツをClaudeが処理した可能性を示す信号にすぎず、来歴を確定するものではありません。Anthropicは理由を2つ挙げています。

前者はとくに実感しにくい。自分もClaudeには、下書きを書かせるより校正や翻訳をやらせることのほうが多いのですが、そこで返ってきた文章にも同じ印が載ります。元の文章を書いたのは自分でも、出力にはClaudeの印が付く。

新しく書かせる、校正させる、翻訳させる、要約させるという4つの使い方を横に並べ、どれにも同じ印が付くため印だけでは区別できないことを示した図

検出できなかったとき

こちらはさらに弱い情報です。マークが検出されないことは、そのコンテンツにAIが関わっていないことを意味しません。Anthropicは検出されない場合の例をこう挙げています。

よくある思い込みと、実際

思い込み実際
透かしがあるなら、AIが書いた文章だ人が書いた文章をClaudeに校正や翻訳させただけでも付く
透かしがないなら、人が書いた文章だ導入前のモデル、大幅な書き換え、短文などで付かない。消えることもある
AI利用の有無を判定する材料に使える単独では確定できない。補助的な信号にとどまる
画像のメタデータは簡単には消えない形式変換、再保存、スクリーンショットで消える
EU域内だけの話だAnthropicは世界中で適用するとしている

学校の課題や採用選考でこれを単独の根拠に使えば、教員や採用担当者は簡単に人を誤って落とします。検出結果は手がかりどまりです。証拠として扱う運用は、作った時点で間違っています。

Claudeを組み込んで作る場合

Anthropicが対応したからといって、Claudeを組み込む側の義務が消えるわけではありません。Anthropic自身も記事の中で、第50条が自社の製品やサービスに何を求めるかは独自に評価すべきだと書いています。そのうえでEUの行動規範に基づく約束として、利用者が自らの透明性義務を果たせるよう支援すること、マーキングと検出に関する技術ガイダンスを順次公開することを挙げています。

提供者と導入者の違い

第50条は立場ごとに違う義務を定めています。

立場定義主な義務
提供者(provider)AIシステムを開発してEU市場へ出す者。EU域外の事業者でも、出力がEUで使われるなら該当しうる第50条(1) 対話しているのがAIだと分かるようにする。第50条(2) 生成物へ機械可読なマークを付ける
導入者(deployer)職務上の活動としてAIシステムを自らの権限のもとで使う者第50条(4) ディープフェイクの開示。公共の関心事に関するAI生成テキストの公表時の開示

1つの組織が両方に当たることもあります。自社サービスにClaudeを組み込んで文章を生成させるなら、そのサービスの提供者であると同時に、Claudeの導入者でもある、という具合です。

第50条(4)には例外があります。芸術的、創作的、風刺的、フィクションの作品は開示の形が緩みます。人間が編集上のレビューをしていて、その内容に編集責任を負う者がいるテキストも対象外です。

左に提供者の定義と第50条1項2項の義務、右に導入者の定義と第50条4項の義務を並べ、下に例外と、組み込む側にも義務が残ることを示した図

EUが配布しているラベル用アイコン

導入者向けの開示を助けるため、欧州委員会はラベル用のアイコンを無償で公開しています。2026年8月10日時点で、これらは行動規範の一部を構成しています(EU icons for labelling AI-generated content)。

確認しておきたい観点

法解釈は弁護士の仕事です。技術側で先に手を付けられるのはこのあたりだと思います。

要点

参考資料


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